おもちゃ選びの基準はどんなものがある?
筆者は空いた時間で読む程度ではありますが、論文や研究者の記事を読むのが好きです。このページではおもちゃ選びについて参考になりそうな研究を引用を交えながら紹介したいと思います。
内受容感覚の心地良さを湧き立たせるものは良いおもちゃ
京都大学教授の明和氏によれば、乳児期の子どもたちに効果的だと考えられるのは、内受容感覚の心地良さを他者との身体接触から得られる、絵本の読み聞かせや食事場面をうまく活用することを挙げています。内受容感覚とは内蔵感覚ともいわれ、アタッチメント形成や感情発達を支える根幹となる感覚です。お腹が空いたとか、胃が痛いとか、ドキドキするとか、自分の身体の中に感じる感覚です。
明和氏は以下のように述べています。
絵本である必要はないが、相手の表情や声という経験が、身体内部の心地良さと結びつくような機会を豊かに提供することが重要です。例えば、真似遊びをし始めた頃の乳児は、イチゴのおもちゃをもぐもぐと食べるふりをした後、それをお父さんやお母さんの口に近づけて食べさせてあげるような仕草を見せます。この時、乳児は実際にイチゴを食べた時に感じた心地良さを記憶から想起させ、そうした感覚を他者と共有しようとしているのです。内受容感覚の心地よさを湧き立たせ、そのイメージを他者と共有するきっかけを作る玩具などは、とても素晴らしいと思いますね。
月刊トイジャーナル2022年4月号 P.25 科学の知見を活かして子ども達にとっての良い玩具を考えて欲しい 京都大学大学院 教育学研究科 教授 明和政子氏
筆者自身も語りかけが子育てに良いというのは私も本で読んだことがあります。こういった研究でも効果があることが証明されているのですね。
おもちゃを選ぶ際の1つの基準としては、ここで引用したように内受容感覚の心地よさを湧き立たせるようなおもちゃはきっと子どもにとって良いおもちゃであると思います。
そうはいっても、おもちゃ1つ1つに「このおもちゃは内受容感覚の心地よさを湧き立たせます」などとは書かれていないので、おもちゃ1つずつこれは我が子にとって心地よさを湧き立たせるだろうかと考えていく必要があるかなと思います。
子どもたち1人1人個性があるのと、お父さんお母さんも子どもに与えたいおもちゃというものはそれぞれ好みがあると思いますので、それぞれに合ったおもちゃ選びをするのが良いのではないかと思います。
その際に子どもが興味を持ちそうなおもちゃを選ぶのが良いですが、同時にお父さんお母さんも一緒に興味を持ったり楽しんだりできるおもちゃの方が語りかけ子どもとのコミュニケーションも取れやすくなり、内受容感覚の心地よさを湧き立たせやすくなるのかなと思いました。
反応が一律ではないおもちゃは前頭前野を発達させる
明和氏が述べていることの中で、もう1つ良いおもちゃについてのコメントがあったのでそちらも紹介したいと思います。頭のいい人になるには前頭前野を発達させることが良いとされています。
前頭前野とは思考や創造性を担う脳の最高中枢であると考えられている部位で、ワーキングメモリー、反応抑制、行動の切り替え、プラニング、推論などの認知・実行機能を担っている。また、高次な情動・動機づけ機能とそれに基づく意思決定過程も担っている。さらに社会的行動、葛藤の解決や報酬に基づく選択など、多様な機能に関係している。(脳科学辞典,2022)
前頭前野の発達を促す効果が高いのは対人場面です。物理的なものと違って、他者ほど「明確な解がない」対象はないからです。対人場面では文脈に応じて柔軟に相手の立場をイメージ、推論し、他者に対応することが必要となるのです。
月刊トイジャーナル2022年4月号 P.25 科学の知見を活かして子ども達にとっての良い玩具を考えて欲しい 京都大学大学院 教育学研究科 教授 明和政子氏
スマホはヒトの思考を超えた様々なイメージを与えてくれますが、問題はヒトが思考を深める「前に」解を与えてしまうことです。対人場面では、前頭前野を使って色々な選択肢をイメージしながら相手の立場を推論し、対応することが求められます。ですから、「解のない」玩具こそが前頭前野の発達には有効だと考えられます。
月刊トイジャーナル2022年4月号 P.25 科学の知見を活かして子ども達にとっての良い玩具を考えて欲しい 京都大学大学院 教育学研究科 教授 明和政子氏
「解がない」おもちゃが子どもの発達には良いようです。例えばボタンを押すと必ず決まった解が返されるようなものよりも、どんな解が出てくるか分からない(解がない)おもちゃの方が、おもちゃを選ぶ基準としては良さそうです。
個人的には「解がある」おもちゃが悪い(良くないおもちゃ)ということではなく、解があるおもちゃは子どもの成長を限定するという風に考えました。
「解がある」おもちゃがあってもいいけど、それを「解のない」おもちゃでカバーするような考え方はどうでしょうか。バランスをとった考え方ですが、そう考えておくと、子どもが興味を示したおもちゃが「解がある」おもちゃであっても、一律に否定するのではなく、そういったおもちゃでも遊びながら、「解のない」おもちゃも取り入れることが出来るのではないか?とトイジャーナルを読んでいて思いました。
おもちゃの選ぶ基準の参考になったでしょうか。少しでもお役に立てたら幸いです。
出典:
・脳科学辞典
・明和政子氏(2022)
月刊トイジャーナル2022年4月号 科学の知見を活かして子ども達にとっての良い玩具を考えて欲しい